無期雇用派遣とは?登録型派遣・正社員との違いと労働者・派遣先企業双方のメリット・デメリット
無期雇用派遣とは、派遣会社とスタッフの間で「期限の定めなく」雇用契約を結ぶ制度のことです。
派遣先企業にとって「派遣元から派遣されるスタッフ」であることに変わりはありませんが、スタッフの収入が安定することによるモチベーション向上、長期的なスキルアップ、キャリア構築につながるなどのメリットがあります。
無期雇用派遣は2018年4月に、労働契約法の「無期労働契約への転換」ルールによって生まれました。
登録型派遣と無期雇用派遣、正社員の違いを解説したうえで、労働者側と派遣先企業側のそれぞれから見たメリット・デメリットを紹介していきます。
- 無期雇用派遣は派遣会社の選考・採用を経て期間の定めのない雇用契約を結ぶため、基本的には毎月決まった給料を受け取る
- 登録型派遣には選考・採用がなく、派遣先企業に派遣されている間だけ派遣会社と雇用契約を結び、給料を受け取る
- 無期雇用派遣はスタッフの長期的な人材育成において注目されている
目次
無期雇用派遣とは
無期雇用派遣とは、派遣会社と期間の定めのない雇用契約を結ぶ形態をいいます。派遣会社と派遣先企業との派遣契約が切れても雇用契約が継続するため、派遣先企業で働いていない期間も、給与または休業手当が支払われます。
無期雇用派遣と登録型派遣の違い
無期雇用派遣も登録型派遣も、派遣会社から派遣先企業に派遣され、派遣先企業の指揮・命令のもとで働くという点は同じです。
しかし、無期雇用派遣の場合では、派遣会社の採用選考に応募して採用されると「雇用期間の定めのない雇用契約」を結ぶことから、スタッフは派遣先企業に派遣されていない期間も派遣会社に雇用されている形になります。そのため、無期雇用派遣は、基本的には毎月決まった給料を受け取れます。
一方、登録型派遣には採用選考がなく、登録しておくことで派遣会社から派遣先企業の紹介を受けられます。スタッフは派遣先企業に派遣されている間だけ派遣会社と雇用契約を結び、給料が支払われます。
無期雇用派遣と正社員の違い
無期雇用派遣で働く派遣社員と派遣会社の正社員は、派遣会社に無期雇用契約で雇用されているという点は同じです。また、同じ社会保険に加入し、福利厚生も同一とされているケースが目立ちます。
しかし、勤務地や指揮命令系統、仕事内容には違いがあります。無期雇用派遣は派遣先企業を勤務地として、派遣先企業の指揮命令のもと、派遣先企業の業務を担います。これに対して、正社員は派遣会社で派遣会社の指揮命令のもと、派遣会社の仕事にあたります。
無期雇用派遣に転換する条件・対象者
有期労働契約の派遣スタッフは、下記3つの条件を満たした場合に無期転換申込権を得ます。
- 同一の派遣元と有期雇用契約を結んだ期間が通算5年を超過している
- 1回以上契約を更新している
- 現時点で同一の派遣元と契約している
上記の条件を満たす有期雇用スタッフが派遣元企業に対して無期転換の申込みをすることで、無期労働契約が成立します。無期労働契約を申し込まれた派遣元企業は断ることができないため、スタッフは契約解除の心配をせずに働くことができます。
無期雇用派遣への転換は自動的に行われるものではなく、申込が必要となるため注意しましょう。
2024年4月1日から「労働条件明示の項目」が追加
無期転換申込権は労働者の申込により初めて成立するため、労働者が自らの無期転換申込権について知らずに機会を逃してしまうことが多く起こっていました。
2024年4月1日の労働基準法施行規則改正では労働条件明示事項が追加され、有期労働契約者に対しては更新上限の有無と内容(有期契約締結・更新時)、無期転換申込機会および無期転換後の労働条件(無期転換申込権の発生する契約更新時)を明示することが必要となりました。
誰に | いつ | 追加された明示事項 |
---|---|---|
全労働者 |
労働契約の締結・更新時 |
就業の場所・業務の変更範囲 |
有期契約労働者 |
有期契約の締結・更新時 |
更新上限
|
無期転換申込権の発生する契約更新時 |
・無期転換申込機会 ・無期転換後の労働条件 |
無期雇用派遣のメリット・デメリット
一般的に無期雇用派遣のメリット・デメリットは、労働者側と派遣先企業側で表裏一体です。無期雇用派遣を適切に運用することで、労働者側と派遣先企業側がともにWIN-WINの関係になれます。
労働者側から見る無期雇用派遣のメリット
労働者側から見て、雇用期間の定めのない無期雇用派遣には多くのメリットがあります。その中でも代表的なものとして、次の3つが挙げられます。
待機期間も収入が途切れず安定する
登録型派遣では、派遣先が決まっていない待機期間は給料が支払われないため、収入が不安定になりがちです。その点、無期雇用派遣は常時雇用されている状態となるため、待機期間中も基本的に給与が支払われ、収入が途切れないことがメリットです。
また、登録型派遣は時給制のため、ゴールデンウイークや夏季休暇、年末年始といった長期休暇のある月は給与が少なくなりがちです。一方、無期雇用派遣は月給制のところが多く、1ヵ月の勤務日数に左右されないという点からも、収入が安定します。さらに、派遣会社によっては賞与も支給されます。
同じ職場で長期間働ける
労働者派遣法によって、派遣社員は同一の組織単位(課など)で3年以上働くことができません。しかし、無期雇用派遣はこの規定の対象外となるため、同じ職場で長期間働けることもメリットです。就業が途絶えにくく、同一の職場で経験を積めることから、長期的な視点でキャリア形成を図れます。
スキルアップが望める
派遣会社はすべての派遣社員を対象に、キャリア形成支援制度を設けることが義務付けられています。また、無期雇用派遣に対しては、長期的なキャリア形成を目的とした教育訓練を実施しなければなりません。そのため、無期雇用派遣はキャリアアドバイスや研修を通じて、長期的なキャリア形成を目指したスキルアップが図れることもメリットに挙げられます。
派遣先企業側から見る無期雇用派遣のメリット
派遣先企業側から見ても、無期雇用派遣にはいくつものメリットがあります。代表的なメリットとして下記の3点について紹介していきます。
人材リソースの安定確保
登録型派遣では良い人材であっても、同じ派遣社員を同一の部署で3年以上受け入れることはできません。無期雇用派遣であれば、3年という縛りがなくなるため、人材を安定して確保することが可能になります。
採用選考によりスキル・経験を有する人材を雇用できる
無期雇用派遣となる派遣社員は、派遣会社の採用選考をパスした人材です。登録型派遣の登録では選考は行われず、主にスキルチェックのみが実施されますが、無期雇用派遣の採用選考では、スキルチェックテストやこれまでの職歴、働く意欲や人柄なども選考のポイントになります。
無期雇用派遣は選考を経ている人材で、スキルや経験に関して詳細に確認が行われていることから、求めている人材とのミスマッチが少ないことが期待されるのです。
人材を育成するバリューが高まる
登録型派遣では3年以上同じ部署に同一の派遣社員を受け入れることができないことから、派遣社員を受け入れるたびに、業務に慣れるまで指導や育成を行う手間やコストが都度かかります。一方、無期雇用派遣であれば、3年を超えて受け入れることができるため、任せられる仕事の幅が広がるなど、人材を育成する意義が高まることがメリットです。
また、長期的なキャリア構築ができることで、派遣社員のモチベーションのアップにもつながっていきます。
労働者側から見る無期雇用派遣のデメリット
このように、無期雇用派遣には多くのメリットがある一方で、「デメリットしかない」「やめておけ」という論調が見られるのも事実です。労働者側から見た無期雇用派遣のデメリットに考えられるのは、下記の3点になります。
自由な働き方が難しくなる
無期雇用派遣の場合、自分のライフスタイルに合わせた、自由な働き方を望むことは難しくなります。
登録型派遣の場合は、働く期間や勤務時間、仕事内容を希望して、好きな職場で働くことが可能です。たとえば、好きな時期だけ働いて、長期間にわたって働かずに旅行を楽しむといったライフスタイルも実現できます。
しかし、無期雇用派遣の場合は、常時雇用されている状態になるため、派遣会社としては待機期間ができないように、派遣先企業を用意してきます。長期の休暇を取るのは難しく、基本的には派遣先企業を選べないことから、希望しない職場で働かざるを得ない可能性もあります。
採用選考の難易度が高まる
無期雇用派遣は、書類選考や複数回の面接による採用選考があることが一般的です。必ずしも採用されるとは限らず、落ちたというケースも少なくないこともデメリットに数えられます。一定のスキルや就労意欲がない人は、無期雇用派遣の採用選考を通過しにくいといえるでしょう。
正社員との待遇差
無期雇用派遣は3年を超えて同じ派遣先企業の同一の部署で働くことが可能ですが、長期にわたって就労していても、派遣先企業の正社員との待遇は異なります。
無期雇用派遣の雇用主はあくまでも派遣会社であり、給与は派遣会社との取り決めで決まっています。たとえば、派遣先企業の業績がよく正社員に臨時ボーナスが支給されても、無期雇用派遣の派遣社員の待遇は変わらないということも考えられます。
派遣先企業側から見る無期雇用派遣のデメリット
無期雇用派遣には派遣先企業側から見たデメリットもあります。
人材育成コストの発生
無期雇用派遣の派遣社員が派遣されても、必ずしも長期にわたって同じ派遣社員が派遣されるとは限りません。派遣される派遣社員が変わるたびに、人材育成コストはどうしてもかかります。
情報漏えい等のリスク
無期雇用派遣であっても、派遣社員は正社員と比較して帰属意識が薄いことから、情報漏洩のリスクが危惧される傾向があります。無期雇用派遣など派遣社員の受け入れにあたっては、セキュリティ関係のルールを強化するなどの対策をとることが重要です。
モチベーション管理が難しくなる側面
無期雇用派遣は正社員との待遇の違いから、モチベーションを維持して働き続けることが難しい側面があります。派遣先の企業の正社員のように、昇給や昇進をすることはできません。そのため、無期雇用派遣という雇用形態では、個々の能力が十分に発揮されにくいことが懸念材料です。
無期雇用派遣が注目されている理由
無期雇用派遣は労働者側から見ると、派遣会社からのキャリアアドバイスを受けながら、1つの企業、あるいは複数の企業で安定して経験を積んでいくことができます。派遣先企業も、優秀な人材を派遣社員のまま長期にわたって受け入れることが可能です。
派遣というと、登録型派遣をイメージされる方もまだまだいらっしゃるでしょう。登録型派遣と無期雇用派遣の違いは以下の記事をご覧ください。
労働者側と派遣先企業側の双方に大きなメリットがもたらされることから、ある程度の柔軟さも備えた新しい雇用形態として注目されているのです。
日研の無期雇用派遣
日研トータルソーシングの派遣スタッフは無期雇用社員として、製造業企業のさまざまな業務に対応しています。無期雇用派遣の強みを活かしてお客様の事業・プロジェクトに深くかかわり、中長期的なサポートが可能です。
無期雇用派遣によって、派遣社員として働く労働者には新たな選択肢が生まれました。企業側にとっても、一定のスキルのある人材を受け入れ続けられるというメリットがあります。少子高齢化によって生産年齢人口が減少していく中、無期雇用派遣は雇用形態のひとつとして定着していくでしょう。