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業界トレンド - ものづくり

バイオリアクターの原理とは?発酵食品や再生医療・製造業の応用例と細胞培養の展望

バイオリアクターとは、動植物の細胞や微生物、酵素などを用いて物質の合成や分解、生産を行う「生化学反応装置」です。たとえば醤油の製造に用いられる製麹(せいきく)装置などもバイオリアクターの一種に位置付けられます。

このように、その仕組み自体は古くから活用されてきましたが、バイオリアクターは再生医療や培養肉といった近年のメガトレンドとも深く関連しており、注目度が飛躍的に高まっています

本記事では、バイオリアクターの原理などの概要から、生化学反応装置を活用している産業の事例、さらに今後の展望について考察します。

バイオリアクターとは
  • バイオリアクターは、生体触媒を用いて物質の合成や分解、生成を行う「生化学反応装置」の総称
  • 培養肉による環境保全や食糧不足対策、再生医療への活用などポテンシャルに期待
  • 半導体工場で利用されるクリーンルームの運用技術を横展開、食品以外の業種からも企業が続々と参入

目次

    バイオリアクターとは

    バイオリアクターとは

    バイオリアクターとは、常温・常圧の条件下で動植物の細胞や微生物、酵素などの生体触媒を用いて物質の合成や分解、生成を行う「生化学反応装置」の総称です。

    その歴史は長く、古くから納豆や醤油、酒などの発酵食品・醸造食品の生産に利用されてきました。近年では食品以外のさまざまな分野にも応用されており、有用物質の生産だけでなく、分析に活用されることもあります。

    なお、「生体触媒」を用いるバイオリアクターに対し、高温・高圧の条件下で「化学触媒」を用いて物質の合成などを行う装置はケミカルリアクターと呼ばれています。

     

      バイオリアクター ケミカルリアクター
    条件 常温・常圧 高温・高圧
    触媒 生体触媒 化学触媒

    バイオリアクターは、高温・高圧の条件を求められず、触媒を繰り返し利用できることから、ケミカルリアクターと比較して省コストで物質の合成や分解・生成に利用できる点に優位性が認められます

    バイオリアクターの原理

    バイオリアクターの原理

    バイオリアクターは、温度や水素イオン濃度(PH)、圧力などの条件が管理された環境で、原料となる反応物質が、固定化された動植物の細胞や微生物、酵素などの反応素と合成・分解されることで生産物を獲得する仕組みです。

    このバイオリアクターの原理において、重要な役割を担う微生物や酵素などの反応素はリアクター内に留まり、固定化されて繰り返し利用できるようになっています。

    バイオリアクターを利用した産業の例

    先述した発酵食品や醸造食品の製造をはじめ、バイオリアクターを利用した産業は現在では多様な分野に拡大しています。

    • 医療
    • 診断・分析サービス
    • 資源エネルギー
    • 環境浄化
    • 化成品
    • 農林業・畜産業・水産業 など

    なかでも特筆すべき応用事例は医療分野となるでしょう。再生医療や医療診断検査、遺伝子診断検査などの領域で、バイオリアクター技術の本格的な活用がはじまっています。

    資源エネルギー分野では、環境に配慮したエネルギー源としてバイオエタノールなどのバイオ燃料がバイオリアクターによって生産されています。SDGs推進の背景からも、化石燃料に代替するバイオ燃料の研究開発と利活用に大きな注目が集まっているのです。

    さらに水処理や空気処理など、環境関連分野における応用も活発化しています。

     

    細胞培養におけるバイオリアクター

    バイオリアクターとは、いわば「生物由来の触媒が常温・常圧で反応するための場」です。つまり、従来のような酵素や微生物を投入して有用物を得るといった使い方のほかにも、動物細胞を投入しての培養にも高いポテンシャルが認められます。

    培養の対象となる動物細胞は、以下の2つに大別されます。

    • 浮遊しながら増殖できる「浮遊細胞」
    • 増殖に足場が必要な「足場依存性細胞」

    バイオリアクターは、後者の足場依存性細胞に対して適切な足場を提供し 、温度・pH・濃度・圧力・撹拌速度・流量・通気などを管理しながら、細胞の増殖と分化を制御するための場としての役割を果たします。

    バイオリアクターに期待される「培養肉の実用化」

    バイオリアクターに期待される「培養肉の実用化」

    バイオリアクターの活用法として、近年とくに期待されているのが「培養肉」の生産です。培養肉とは、動物の細胞を培養してつくられた人工肉のことで、動物肉の代替品として注目を集めています

    なお、動物肉の代替品としては、大豆由来のタンパク質を用いた「大豆ミート」などもすでに製造・販売されていますが、これらはあくまでも「動物肉に似せた別の食品」です。動物の細胞からつくられる培養肉とはエレメントそのものが異なります。

    培養肉の製造過程では、家畜から採取した種細胞をまずは培地で成長させ、さらに大量に増殖させるプロセスを踏みます。その大量増殖のフェーズで活用されるのがバイオリアクター、の位置づけです。

    バイオリアクターで増殖した細胞は、3Dプリンタを用いて本物の肉に似た食感を持つ3次元の組織に構築され、培養肉として出荷されます。

    本格化する「培養肉工場」の建設

    本格化する「培養肉工場」の建設

    培養肉を製造する培養肉工場は日本のみならず世界中で建設が始まっており、食品以外の業種からも工場建設やプラント運営のノウハウを磨いた企業が続々と参入しています

    従来の培養肉は、再生医療で用いる臓器培養の手法を応用したもので、生産性に難がありました。しかし、安全性の確保と大量生産の両立が得意な製造業の知見を取り入れることで、産業としてスケールするための道筋が見えてきているのです。

    具体的には、培養肉の製造過程では、菌の増殖や異物混入を防ぐ技術のほか、効率的な大量生産を実行する技術が求められます。これは製造業、たとえば半導体工場などで利用されているクリーンルームの運用技術からの横展開が可能です。

    また、培養肉を成形する3Dプリンタの技術や不良品を弾くのに必要なセンサ技術なども、製造業に優位性が認められるファクターとなるでしょう。

    こうした背景を受け、医療業界や食品業界とは畑違いとなる製造業から、培養肉工場のデファクトスタンダードを打ち立てようとする企業の参入が相次いでいるのです。

    再生医療の実現につながる細胞培養の発展

    培養肉の技術向上は、ヒト由来細胞を用いて組織や臓器を形成する再生医療の低コスト化にも役立つと考えられています。

    再生医療で用いる培養臓器と培養肉との違いは、大まかにはヒト由来の細胞を使うか、家畜由来の細胞を用いるかという点にしかありません。しかし現在の再生医療分野では、培養肉の大量生産に用いる機序とは異なるアプローチでの培養が主流で、ひとつの培養臓器を完成するのに必要なコストは数千万円から数億円にもおよぶとされています。

    製造業の知見を生かして培養肉を安全に大量生産できるノウハウを確立できれば、その手法を横展開して、より低コストで培養臓器をつくりだせる可能性を秘めているのです。

    まとめ

    現在、さまざまな分野で利活用が進められているバイオリアクターは、グローバル規模の重大な課題を解決に導くポテンシャルが期待されています。培養肉による環境保全や食糧不足対策、再生医療による各種疾病の治療などは、その代表的な例でしょう。

    製造業においても、大きな可能性を秘めています。既存のノウハウとバイオリアクターを組み合わせることにより、新たな事業を低コストでスタートできるかもしれません。

    この記事を書いた人

    Nikken→Tsunagu編集部

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