商品開発で必要な考え方・進め方|アイデア例からわかるポイントと注意点
事業が受注生産に大きく依存している場合など、製造業では売上が安定しない経営状況は珍しくありません。そこで考えられる施策が、自社製品の開発・製造を手掛け、事業の柱にしていく方法です。
自社製品を取り扱うようになると、価格や生産量は自社のコントロール下に置かれます。売上を安定的に確保できるだけでなく、利益率の向上にもつながります。本記事では、自社製品の開発・製造に向けて、商品開発のポイントや流れ、アイデアの例などを紹介していきます。
目次
商品開発のポイント
商品開発は、主に2つのパターンに分類できます。
- 新商品を開発するケース
- 既存商品を改良するケース
いずれのパターンであっても、消費者のニーズを満たすとともに、企業に利益をもたらす商品を企画・開発していくことが大前提です。
新商品を開発するケース
ゼロから新商品を生み出すケースです。消費者のニーズや業界トレンドなどの情報収集や、データの分析結果をベースに商品企画を設計し、商品化に向けて具体化していきます。
開発する商品によっては、製造方法の確立や量産化のための生産ラインの構築に多大な時間やコストを要することがあります。
既存商品を改良するケース
こちらはすでに市場に流通している自社商品を改良し、新たな価値が付加された商品として再開発するケースです。既存商品に対する消費者の反応や売上データの動向、競合商品の調査などから、顕在化した課題を解決するための改良策を講じます。
このケースでは、既存商品のブランドイメージやコンセプトを引き継ぎながら、同時に売上アップを目指すという難しさがあります。
商品開発のアイデアを生むために必要な考え方
商品企画の段階でアイデアを創出する必要な考え方として、次の3つを理解しておきましょう。
- 消費者(ユーザー)のニーズは何か
- 自社リソースで実現できることは何か
- 競合優位性は何か
消費者が商品を購入する目的に該当するニーズを調査し、その目的に沿った商品を開発していく姿勢がまずは欠かせません。また、いくら画期的なアイデアでも、自社での開発・製造が難しいこともあります。現実的に自社リソースで開発は可能なのか、実効性は担保されているのか、検討を重ねる工程も不可欠です。
さらに、特に後発商品の開発を機にシェアの獲得を目指すには、差別化を図れる独自性を持つなど、競合優位性のある商品を打ち出していくことが求められます。
消費者(ユーザー)のニーズは何か
消費者のニーズに応える商品を開発することは、商品開発の基本です。商品開発担当者が作りたい商品を開発しても、消費者のニーズにマッチしなければ購入に至ることはありません。
ニーズとは「要求」「必要性」という意味の言葉ですが、マーケティングにおける消費者のニーズとは、消費者の「目的」と言い換えられるでしょう。消費者は「何のために」○○が欲しいのか、「○○を手に入れる目的」こそがニーズに該当します。
商品 | ニーズの例 |
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食洗機 |
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電気圧力鍋 |
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衣類スチーマー |
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上の例のように、ひとつの商品においても、その背景には多様なニーズが存在します。こうした消費者のニーズを知るためには、SNSの投稿内容分析やアンケート調査、インタビュー調査などの方法が有効です。
自社リソースで実現できることは何か
自社が有するリソースで商品開発は実現するのか、という点も慎重に判断しなければいけません。自社リソースとは、自社の経営資源を指すもので、「ヒト・モノ・カネ・情報」の4つが四大経営資源と呼ばれています。
ヒト |
人材や組織のこと。商品開発や製造技術などにおいて、開発分野の専門的な知識を備える人材が必要 |
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モノ |
工場や製品を作るための生産設備などが該当。自社で製造可能な製品は、保有する生産設備に大きく左右される |
カネ |
資金力のこと。人材確保や設備投資費用、広告宣伝費用などに関わる |
情報 |
顧客データやノウハウ、特許、著作権など |
たとえば、自動車メーカーが新たな車種の開発に取り組む場合、ヒトやモノ、カネ、情報のいずれの面からも、自社リソースは十分にそろっていると評価できます。
一方、自動車メーカーが介護ロボットを新商品として展開していくケースでは、ロボットや介護に関する専門人材の確保が求められ、採用、あるいは外部人材の登用が必要となります。既存の生産設備の転用ではロボットの製造に対応できないとなれば、相応の資金を割いての設備投資も必要です。
つまり商品開発においては、これまでに培ってきたノウハウを応用し、自社人材や既存の生産設備で開発や量産化に対応できる企画であれば、実現可能性は高いと評価できます。一方、人材確保や設備投資、新たなノウハウ獲得が必要な分野の場合は、新商品の開発は現実的に可能なのか、慎重に検討しなくてはいけません。
競合優位性は何か
競合優位性とは、自社商品が競合他社の商品よりも有利なポジションを獲得できる領域を指します。競合優位性の確立には、他社商品と明確に差別化できる特長を商品に持たせることが必要です。
特に自社開発商品が市場において「後発」の立ち位置として参入するのであれば、競合優位性は欠かせません。類似する商品群のなかで差別化が図れないようでは、消費者の支持を獲得し、シェアを奪取していくことは困難です。
- 大量生産による低価格化
- 独自の仕様による高い機能性
- 興味関心を惹くスタイリッシュなデザインやおしゃれなパッケージ
商品開発の進め方
一般的に、商品開発は次のステップで進めていきます。
- 市場調査
- 企画作成
- 販売計画
- 試作・製造
- 販売活動
- サーベイ
商品開発を進めていくには、商材にある程度の市場規模があり、競合他社と比較して自社が明確な強みを有することが前提となります。そのためには、市場調査を実施して企画作成に反映していくプロセスが欠かせません。
また、企画作成から販売活動に至るまで、商品のコンセプトやターゲットに一貫性を持たせることもポイントです。
①市場調査
市場調査とは、市場動向やトレンド、消費者ニーズなどを調査・分析することです。商品開発においては、競合他社の商品や消費者のニーズを把握して、既存の商品では対応できていないホワイトスペースを見つけることが主目的です。
市場調査は、大きく定量調査と定性調査に分類できます。
- 定量調査:数値データを取得できる調査。項目を用意して消費者に回答してもらうアンケート調査などが該当
- 定性調査:数値化できない言葉や温度感などを収集する調査。対面によるグループインタビューやモニター調査などが該当
また、競合調査の徹底も欠かせません。競合他社の商品ラインアップや価格帯、販売方法などを把握します。
②企画作成
市場調査の結果から、商品企画を作成していきます。あらためて詳細なターゲット設定を行い、コンセプトを決定したのちに、商品の仕様やパッケージなどを決めていくフェーズです。
ここで大切になるのは、自社リソースを正確に、客観的に評価することです。他社よりも技術力が優れている、独自のノウハウを持っているなど、得意分野で勝負できる商品を企画します。主力事業で培ったノウハウを応用できるなど、自社に優位性が認められる分野に合致する企画作成が基本です。
一方、自社の技術力が競合他社に及ばない分野における商品企画では、その実効性に疑問符が付きます。「機能や品質面で劣るため売上が伸びない」「そもそも製品化にまで至らない」といった失敗を招きかねません。
③販売戦略・計画
続いて、商品を販売するチャネルの選定と広告戦略を立案します。スーパーやコンビニエンスストア、百貨店、あるいは自社のオンラインショップなど、考えられる販売チャネルは豊富です。どのチャネルでの販売に注力すべきかを決定します。
WEB広告や新聞折り込みチラシ、業界紙、さらに自社のWEBサイトやSNSなど、広告媒体も無数にあります。複数の媒体を活用して広告・宣伝を行う手法(プロモーション・ミックス)が一般的です。
④試作・製造
試作品を作成し、量産化の足掛かりとするフェーズです。企画作成段階で決定した構想設計や仕様をベースに基本設計を行い、試験的に原理試作を製作。性能やデザイン、コストなどの面から評価を下し、試作と評価を繰り返します。
そして、詳細設計を経て量産試作を実施し、試作と検証を再度繰り返した後に、本格的な製造に至るという流れになります。
試作・製造段階にて重要になるのが、製品の確認および意思決定オペレーションの明確化です。
試作段階までに、どのような商品として世の中にリリースするのか、仕様を厳格に定め、原理試作が要求仕様を満たしていることを確認できたうえで、次のステップに進んでいきましょう。開発コストを抑えつつ、スケジュールを遵守して商品開発を進めていくには、各段階での意思決定フローの明確化は欠かせません。
意思決定に不備があった場合、量産化を進めている段階での仕様変更にもなりかねません。部品一つを変えただけでも、さまざまな検証をやり直すことになります。製造コストの拡大や販売スケジュールが遅延する要因にもなるでしょう。
⑤販売活動
続いて、開発した商品の認知度向上や販路を強化するための販売促進活動や営業活動に移行します。商品の生産スケジュールの見通しがついた段階で、販売活動が本格化していく流れです。
策定した販売戦略・計画をもとに、広告展開やキャンペーン、卸売業者や小売業者への売り込みなどを実施します。
⑥サーベイ
サーベイとは「調査」とも言い換えられます。開発した商品の売れ行きの良し悪しを問わず、売上分析や再度の市場調査を必ず実施し、消費者のニーズに合わせた改善を繰り返します。いまは人気商品となっている製品であっても、発売当初の売上は芳しくなく、リニューアルを重ねた結果、大きな成果につながっているケースも少なくありません。
たとえば商品には一定のニーズが認められるものの、アンケート調査を実施した結果、「パッケージがわかりにくい」ということが判明したケースです。この場合は商品の仕様に手を加えるのではなく、パッケージのリニューアルが必要になります。
商品開発に使えるフレームワーク
フレームワークとは、戦略立案や課題解決などに役立てられる、いわば考え方の「枠組み」です。多くの商品開発に活用されているフレームワークの代表例には、次の3つが挙げられます。
- バリュープロポジション
- STP分析
- 4P分析
バリュープロポジション
バリュープロポジションとは、競合他社には提供できないものの、自社では「強み」として提供できる、消費者が求める価値を差します。「自社が提供できる独自の価値」とも解釈できるでしょう。
バリューポジションの明確化は、競合優位性の獲得に直結します。価格競争にも巻き込まれにくく、利益率の高い商品となっていく成長可能性も十分です。
上の図のように、バリュープロポジションは「消費者が望む価値」「自社が提供できる価値」かつ「競合他社が提供できない価値」に該当します。
- 消費者が望む価値:充電切れせずに長時間使える掃除機が欲しい
- 競合他社が提供できる価値:予備の充電池もスタンドで充電が可能
- 自社が提供できる価値:2時間連続使用が可能
- バリュープロポジション:バッテリー交換の手間なく長時間連続使用が可能
なお、構成要素のひとつである「消費者が望む価値」は、アンケート調査を実施して顧客の声を集めるなど、客観的なデータから分析しましょう。一定の根拠に基づいていない、いわば「思い込み」の介在は禁物です。
また、「自社が提供できる価値」や「競合他社が提供できる価値」を考える際には、後述するSTP分析が役立ちます。
STP分析
STP分析とは、マーケティングに関連する次の3つの工程の頭文字から名付けられたフレームワークです。
- Segmentation:セグメンテーション
- Targeting:ターゲティング
- Positioning:ポジショニング
STP分析は、顧客のニーズを整理し、自社の強みを把握するとともに、競合他社との競争を避けられる分野の発見に役立つことから、商品開発に欠かせないアプローチです。
STP分析は、次のような流れとなります。
- セグメンテーション:ターゲットの属性やニーズなどの要素から市場を細分化する
- ターゲティング:細分化された市場から、参入する市場を決定する
- ポジショニング:競合他社の状況から、参入する市場における自社の立ち位置を決定する
飲料メーカーのドリンク開発を一例としてみましょう。
- セグメンテーション:「昼食のときに飲みたいお茶」「休憩時間にほっと一息つけるコーヒー」「疲れたときに飲みたいドリンク」といったように、消費者のニーズから市場を分類する
- ターゲティング:参入する市場を「昼食のときに飲みたいお茶」に決定する
- ポジショニング:競合他社は緑茶や紅茶が主流で、ジャスミン茶は機能性や低価格を重視しているため、「香り高い高級路線のジャスミン茶」のポジションを狙っていく
4P分析
4P分析とは、商品開発や売上獲得に関連する、次の4つの視点の頭文字から名付けられたフレームワークです。
- Product:製品
- Price:価格
- Place:流通
- Promotion:販売促進
4P分析は、商品の強みを起点とし、流通や販促まで縦断的に活かしていくことに役立ちます。
- 製品:商品の仕様やデザイン、パッケージ、アフターサービスなどから、特徴や強みを整理する
- 価格:想定される利益率や競合他社の価格設定などから、価格設定の妥当性を調査する
- 流通:ターゲットを踏まえ、販売場所や販売方法などを決定する
- 販売促進:ターゲットに訴求するポイントや広告手法などについて戦略を立案する
こちらも同様に、飲料メーカーのドリンク開発を一例としてみましょう。
- 製品:茶葉から淹れたように香り高く、食事に合うスッキリとした味わい
- 価格:オフィスで働く人をターゲットにした高級志向で、やや高価格帯
- 流通:オフィスの近くで購入しやすいコンビニがメイン
- 販売促進:通勤中に目に留まるよう、電車広告などのプロモーションを重視
商品開発のアイデア例
商品開発は、実際にどのように進められているのでしょうか? 独立行政法人中小企業基盤整備機構に掲載されている事例を紹介していきます。
キユーピー3分クッキングマヨ風味炒め用ソース
キユーピー株式会社ではマヨネーズの需要拡大を図るため、マヨネーズの用途自体を広げるべく、炒め物に使う調理方法の普及に取り組んできました。
商品開発担当者は、現場からの声や自身の経験から、「マヨネーズで炒めるとコクが出る」「肉を入れなくてもボリューム感のある野菜炒めができる」「つまり専用ソースとしてのニーズが存在する」と考え、炒め物専用マヨネーズの開発に着手しました。
そして、食べ盛りの子どもがいる30~40代の主婦をターゲットとして、1本で味付けができる「キユーピー3分クッキングマヨ風味炒め用ソース」を開発。簡単にマヨネーズ味の炒めものができると評価され、新しいマヨネーズの使い方を提案する基幹商品へと成長しました。
日清カップカレーライスビーフカレー
「カップヌードル」などで知られる日清食品株式会社では、2009年に発売した「カップヌードルごはん」で即席カップライス市場における地位を確立したのをきっかけに、ラーメンと並ぶ国民食であるカレーライスの開発に着手しました。
ここで活かされたのが、既存の自社リソースです。「日清食品らしいもの」というコンセプトに沿い、水を入れて電子レンジで温めるだけで食べられる、ボックス型容器に米とカレールウ、具材が直接入った商品という方向性に至りました。
カレールウの開発では、カップヌードルカレーなどで培ってきた香辛料や調味料を調合するノウハウや技術が役立ちました。結果、開発された「日清カップカレーライスビーフカレー」は、お皿を洗う手間が省けることなどが評価され、順調な売れ行きとなりました。
まとめ
商品開発に求められるのは、「消費者ニーズ」「自社リソース」「競合優位性」の3つの視点です。受注生産などで培われたノウハウを活用した自社開発製品を取り扱うようになると、売上の安定化や利益率の向上につながり、事業の新たな柱となります。
商品開発にはコストや時間を要します。市場の動向や自社のリソースを鑑みてバリュープロポジションを確立し、勝てる見込みの高い領域に参入することが成功への近道となるでしょう。