特定技能外国人材1号・2号の受入と製造業の対象3分野「産業機械製造業」「素形材産業」「電気・電子情報関連産業」
2019年4月からスタートした新たな在留資格「特定技能」によって、製造業3分野でも外国人材の登用が可能となりました。
これまで外国人材の受入れに利用されてきた「技能実習」とは何が違うのでしょうか。
- 製造業における特定技能の対象分野は産業機械製造業、素形材産業、電気・電子情報関連産業
- 特定技能は即戦力人材による人手不足解消、技能実習は技術力の移転による国際貢献が目的
- 海外人材を活用する際には業種ごとの要件や協議会への加入など、条件の把握が必要
「特定技能外国人材制度」とは何か、製造3分野の対象となる業種や職種、受入れ企業のポイントなどを紹介していきます。
目次
製造3分野・職種の「特定技能外国人材制度」とは
2019年4月の「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」の施行によって、新たな在留資格「特定技能」がスタートしました。
特定技能外国人材制度は、特定産業分野の14分野を対象としたもので、製造業においても3つの分野が対象となっています。
【特定技能外国人材制度:製造業の対象3分野】
- 産業機械製造業
- 素形材産業
- 電気・電子情報関連産業
特定技能1号・2号とは
特定技能とは、中小企業を中心とした深刻な人手不足への対応策として、一定の専門性や技能を持つ外国人材を登用するために設けられた在留資格です。生産性の向上や国内の人材確保の取り組みを行っても人材の確保が困難とされる、14の特定産業分野に従事する外国人を対象としています。
なお、特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類の在留資格が設けられています。
- 特定技能1号:14の特定産業分野のすべてを対象とする、相当程度の知識や経験による技能が必要な業務に従事する外国人に向けた在留資格です
- 特定技能2号:熟練した業務に従事する外国人に向けた在留資格で、「建設」と「造船・舶用工業」の分野のみ、受入れが認められています
特定技能1号の在留資格では、4ヶ月あるいは6ヶ月、1年ごとに在留期間の更新を行い、通算5年まで日本に在留することが可能です。また、特定技能1号は、基本的に家族の帯同は認められていません。
一方、特定技能2号は在留期間の更新に制限がなく、要件を満たせば配偶者や子を帯同させることも可能です。
技能実習生との違い
特定技能外国人制度が創設される以前から、日本では「技能実習生制度」によって多くの外国人の受入れを行っていました。
特定技能と技能実習では、受入れ目的や受入れ対象者が大きく異なります。
- 特定技能:人手不足への対応を目的とし、即戦力となる人材が対象です。
- 技能実習:開発途上国への日本の高い技術力の移転による国際貢献を目的とし、未経験者や見習となる人材を受け入れています。
このほかに違いを挙げると、特定技能と技能実習では対象となる業種や職種にも違いがあり、特定技能は受入れを行う外国人材の国籍にほとんど制限がないのに対して、技能実習は取り決めを行っている14カ国に限定されています。
また、技能実習は原則として転職をすることができませんが、特定技能は自発的意思にもとづく同一職種への転職が可能です。
製造業では「産業機械製造業」「素形材産業」「電気・電子情報関連産業」の3分野が対象
製造業で特定技能の対象となるのは、「産業機械製造業」「素形材産業」「電気・電子情報関連産業」の3分野です。受入企業側の業種と外国人材の従事業務のいずれも要件も満たす場合に、特定技能の在留資格を申請することができます。
業界の人手不足の現状
製造業で特定技能の対象となった3分野は、生産性の向上や国内における人材確保の取り組みを行っても、人材の確保が困難という要件を満たした業種です。
経済産業省の資料によると、産業機械製造業分野と素形材産業分野、電気・電子情報関連産業分野のいずれも、労働生産性は2012年~2016年の推計値で年平均2%上昇しました。また、女性・高齢者比率は2012~2017年の間で、産業機械製造業分野と電気・電子情報関連産業分野は30%から34%に、素形材産業分野は25%から27%に上昇しています。
しかし、人手不足は今後ますます深刻化すると推測されています。
- 産業機械製造業分野
2017年の推計値で未充足求人数が1.2万人におよび、5年後には7.5万人の人手不足が見込まれています。
- 素形材産業分野
2017年の推計値で3万人の人手不足という実態があり、5年後には6.2万人が不足することが見込まれています。
- 電気・電子情報関連産業分野
2017年の推計値で未充足求人数が0.7万人で、5年後には6.3万人の人手不足となると見込まれています。
参考:経済産業省「製造業における特定技能外国人材の受入れについて」
製造分野特定技能1号評価試験とは
特定技能1号の在留資格を取得するには、日本語試験と技能試験への合格が必要です。
- 日本語試験
日本語試験は、国際交流基金日本語基礎テストと日本語能力試験(N4以上)のいずれかに合格する必要があります。
- 技能試験
「製造分野特定技能1号評価試験」とは、製造業の3分野における技能試験で、19の試験区分に分かれて実施されています。製造分野特定技能1号評価試験は日本国内のほか、2020年にはインドネシアとフィリピンで実施されました。
なお、技能実習2号を良好に修了した外国人は、日本語試験や技能試験が免除されます。
受入企業側が押さえておくべきポイント
特定技能の在留資格を利用して外国人材を活用するにあたっては、従事できる業務に業種ごとに特有の要件があることや、協議会への加盟が必要なことなど、受入れ企業側が押さえておくべきポイントがあります。
採用ルートは国により異なる
特定技能外国人の採用ルートは、主に技能実習からの移行ルートと試験ルートがあります。
出入国在留管理庁の公表によると、2020年9月末の特定技能外国人は8,769人で、そのうち技能実習ルートが7,348人、試験ルートが1,326人となっています。製造業の3分野に関してはすべて技能実習ルートによるもので、その他の分野においても、技能実習の対象業種・職種は技能実習ルートが中心です。
また、国籍別では製造業の3分野ではベトナムが最も多く、インドネシアや中国、タイ、フィリピン、ミャンマーなどからも受入れを行っています。
参考:出入国在留管理庁「特定技能在留外国人数」【第7表】国籍・地域別 試験ルート・技能実習ルート別 特定技能1号在留外国人数(令和2年9月末)
求人募集の方法は、自社のホームページ・SNSの活用や、民間の職業紹介事業者に依頼することも可能です。民間の職業紹介事業者は、ベトナムやフィリピンなどのいずれかの国に特化した事業者が多い傾向があります。
また、国内に在留する外国人に対しては、ハローワークを利用するほか、技能実習から特定技能への移行にあたって、転職をすることも可能なため、技能実習生を対象に募集をかけることもできます。
業種ごとの特有の要件
特定技能外国人制度では14の業種それぞれに従事できる職種が定められていますが、日本人が通常従事する関連業務に付随的に従事することも可能です。
製造業の3分野の場合では、下記が関連業務として想定されています。
- 原材料・部品の調達・搬送作業
- 前後工程作業
- クレーン・フォークリフト等運転作業
- 清掃・保守管理作業
協議会への加盟
特定技能外国人制度を適切に運用していくために、受入れ機関となる企業は特定産業分野ごとに設置されている協議・連絡会に加盟することが義務付けられています。製造業の3分野では、「製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡会」が設けられています。
特定技能ビザの申請
技能実習2号を良好に修了した外国人を除き、特定技能ビザの申請にあたっては、技能試験と日本語試験への合格が前提となります。
受入れ機関となる企業と雇用契約を締結した後、海外から来日する場合は、地方出入国在留管理局で在留資格認定証明書交付申請を行います。(日本に在留している場合は在留資格変更許可申請となります)。なお、在留資格認定証明書交付申請は、受入れ機関の職員が代行することも可能です。
地方出入国在留管理局の審査を通ると、受入れ機関に在留資格認定証明書が送付されるので、受入れ機関から在外公館に送ります。そして在外公館での審査が行われた後、ビザが発給されるという流れです。
雇用形態と報酬
特定技能の在留資格の外国人を雇用する場合、原則として直接雇用を行い、フルタイムの勤務とすることが義務付けられています。ただし、例外的に農業と漁業のみ、派遣会社からの受入れが認められています。
また、報酬額は日本人が従事する場合と同等額以上とされており、教育訓練の実施や福利厚生施設の利用などにおいても、差別的な取り扱いをしてはならないとされています。
リスクと回避方法
特定技能の在留資格を持つ外国人は、基本的に会社に対する帰属意識は低く、他に条件の良い募集があればすぐに転職してしまいます。そのため、彼らの業務のノウハウは記録に残しておく必要があります。
また、すぐに転職する可能性があることから、重要な情報やコア技術に関しても取り扱いに注意すべきでしょう。
これらのリスクは、特定技能外国人の雇用支援を行っている人材サービス会社を通すことで回避できます。人材サービス会社は長年培ってきたノウハウがあるため外国人材の扱いに慣れており、彼らの生活支援や労働管理まで行う会社もあります。外国人材を活用したいと思ったら、まずは人材サービス会社に相談してみるのも良いでしょう。
まとめ
製造業における、特定技能外国人材の活用は、現状では技能実習生が習得した技術を活かして就労するケースが中心となっています。
今後は日本への留学生や海外に居住する外国人を活用していくことも考えられますので、受入れ企業は日本での生活をサポートする役割を担うことにも留意する必要があるでしょう。