シリコンサイクルとは?周期の発生原因と2023年現在・今後の半導体業界の景気を考察
半導体需要の拡大が依然進行するなか、「シリコンサイクル」と呼ばれる半導体の景気変動周期の異変が取りざたされています。2023年現在、半導体の需要は「スーパーサイクル」に突入していると言及されており、2020年秋頃から本格化している半導体不足は、いまなお継続しています。
半導体の景気変動に構造的に関わるシリコンサイクル、そしてスーパーサイクルとはなにか。その概要と今後の動向について考察します。
- シリコンサイクルとは、半導体業界の構造的な景気変動サイクルを指すもので、約4年の周期で好況と不況を繰り返すとされている
- 2023年現在、半導体需要の急騰が中長期的に継続する「スーパーサイクル」に突入していると見られている
- 半導体製造は新技術を反映した製品の需要増加に即座に対応するのは難しく、供給量をコントロールすることも困難なため、在庫量の過小あるいは過剰が生まれやすい性質があることから、シリコンサイクルが発生している
シリコンサイクルとは
シリコンサイクルとは、半導体業界の構造的な景気変動サイクルを指すもので、約4年の周期で好況と不況を繰り返すとされています。なお、シリコンサイクルの言葉は、半導体がシリコンを主材料として生産されていることに由来します。
半導体業界は、好況のタイミングでは供給が追い付かないほど大量の注文が殺到しますが、不況フェーズでは供給過剰の状態にしばしば陥ります。これは主に半導体の出荷数の多い、パソコンやスマートフォンなどの需要変動に大きく影響されている結果の顕在化に立脚する現象です。
また、最終製品の生産・供給が拡大するよりも前の段階にて、製品に組み込まれる半導体の需要は拡大するため、シリコンサイクルは景気の先行指標としても注目されています。半導体不況が底を打つと、好景気に向かうと判断されるのもその一環です。
スーパーサイクルとは
2023年現在、突入しているとされているスーパーサイクルとは、半導体の需要が高まっている状況が中長期的に継続する現象をいいます。
通常、半導体は約4年周期のシリコンサイクルに則り、好況と不況を繰り返すものですが、スーパーサイクルに突入すると好況の状態が長く続きます。
AIやIoTといった、半導体と切っても切り離せない分野の成長が続くと需要は高まり続けるため、スーパーサイクルの呼び水になるとされています。
シリコンサイクルはスーパーサイクルに再突入した
2017~2018年ごろから、シリコンサイクルはスーパーサイクルに突入しているといわれています。新興国を含め、高機能化したスマートフォンやタブレット向けの需要が世界的に急騰したほか、AIやIoT関連などの新興テクノロジーがメガトレンドとして著しく成長し、新たなニーズとして拡大したためです。
また、5Gの普及やデータセンター向けのメモリに関連する半導体需要の高まりも無視できない要因です。さらに自動車の電動化などの影響も大きく、パワー半導体の需要も急激に増加しています。
その一方、2019年には米中貿易摩擦の深刻化などの影響が波及し、世界経済の先行きが不透明化したことで、半導体需要は一時的に落ち込みました。しかし、2020年代に入ると、DX(デジタルトランスフォーメーション)の潮流が世界的に加速したことなどにより、再びスーパーサイクルに突入したと見られています。
近年の半導体不足には、2つの要因があります。ひとつは、シリコンサイクルがスーパーサイクルに突入したことに表される、急激な需要の増加です。半導体の製造拠点では、土日を問わずフル稼働するなど生産量の増加に舵を切っても、受注量に対応できないという状況が続きました。
もうひとつ、新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあります。東南アジアなどの製造拠点が一時閉鎖されたことによって、半導体関連の部品が供給不足に陥ったことも指摘されています。
シリコンサイクルはなぜ発生するのか?
シリコンサイクルが発生する要因を、以下の2つの観点を軸にプロセスを考察します。
- 技術革新による機電製品の世代入れ替え
- 設備投資のタイミング
半導体産業では、各メーカーがより優れた製品を世に送り出すために、常に技術開発に注力しています。そして研究開発の結果、新しい技術が反映された製品が登場すると需要は急増しますが、生産設備が十分に整っていないことから生産が追い付かず、価格は高騰へ向かいます。そこで急伸した需要に応えるために巨額の設備投資に踏み切ると、生産数が増加し好況となる流れです。
しかし、半導体の工場建設には約1年、製造にも半年程度かかるなど、設備投資に踏み切ってから生産が軌道に乗るまでには、1~2年という短くない期間を要します。その間に、半導体メーカーの技術力は拮抗し、価格競争が勃発します。
そして技術がコモディティ化していく段階に突入し、設備投資の資金を回収すべく半導体を生産し続けることから供給過剰を迎え、価格が下落して不況を招くプロセスです。
つまり、半導体製造は新技術を反映した製品の需要増加に即座に対応するのは難しく、供給量をコントロールすることも困難なため、在庫量の過小あるいは過剰が生まれやすい性質があります。そして、新たな技術が登場するたびにやがて好況を迎え、新たな設備投資フェーズに突入するサイクルを繰り返しているのです。
また、複合的な要因として、半導体製造には多数のサプライヤーが関わっており、設備投資のタイミングの調整が難しいことも挙げられます。
半導体の製造に関わるメーカーは実に多様です。半導体を製造するデバイスメーカーをはじめ、半導体製造装置メーカー、部品・材料メーカーなどがひしめきます。設備投資の時期や生産量の調整には各社の思惑が絡み合い、半導体産業全体の設備投資のタイミングなどをコントロールするのは極めて困難とされているのです。
2023年は半導体業界が不況となるタイミングか
ここ数年、半導体の需要は急激に増加していましたが、需要拡大を見越した過剰発注も半導体バブルを引き起こした要因に数えられます。
その一方、大手サプライヤーの新工場建設や各サプライヤーの生産設備の増強により、半導体の需要増加に供給体制が徐々に追い付いてきました。「スーパーサイクルはこのまま続く」という見方もありましたが、2023年以降は本来のシリコンサイクルと重なり、在庫調整の段階に入っていく可能性も指摘されています。
実際にシリコンサイクルは2023年4月に底を打ったとされ、2024年春頃には回復基調となることも見込まれているのです。
今後シリコンサイクルの周期は短くなる?
半導体市場はシリコンサイクルとして顕在化する好況と不況を繰り返してはいますが、長期で俯瞰すると市場規模は拡大を続けています。今後も好況と不況を繰り返しながら、成長していくことが見込まれています。
ただし、技術革新のスピードが加速していることから、従来よりも短期間で製品の世代が入れ替わり、需供バランスの均衡が崩れやすくなることから、シリコンサイクルの周期は短くなるという見方もあります。
一方で半導体産業では、シリコンサイクルに呼応する業績変動の抑制を図る動きもあります。昨今では、半導体製造に関わる有力なサプライヤーが絞られてきているため、設備投資のタイミングを半導体産業全体でコントロールしやすい環境も醸成されつつあるのです。
また、半導体のデバイスメーカーと半導体製造装置メーカー、部品・材料メーカーなどの間で、生産計画の共有が進んでいることからも、在庫量の適正化が進むことも考えられます。こうした点から、シリコンサイクルの景気変動幅の縮小が期待されています。
まとめ
半導体需要の長期的な高まりを受け、台湾の半導体メーカーと協業し、日本国内に大規模な半導体工場が設置される報道がメディアを賑わせています。シリコンサイクルに応じた需要変動の波は続くものの、半導体はAIなどの技術革新に牽引され、今後も高いニーズが続いていくでしょう。
景況を予測するにあたり、シリコンサイクルへの着目は今後も欠かせない視点となります。